かばくん|怪我しない程度にエッジのきいた、ロールキャベツ絵本

絵本
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福音館書店から初版がでたのが1966年の「かばくん」。作者は、岸田國士の長女、岸田今日子の姉としても有名な岸田衿子(きしだえりこ)さんです。あまり表だっては評判を聞くことがないけれど、我が家にはある。そして、かつての我が家(私が子どもだった頃)にもあった。つまり名作。外見は100%ほんわか、でも中はけっこうエッジが効いた内容の、ロールキャベツな絵本です!

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作者は岸田衿子(きしだえりこ)さん

福音館書店の公式サイトから転載

岸田衿子さんの実父は劇作家やその他さまざまな肩書きでその名を歴史に残す岸田國士さん。そして、昔の写真をみると中条あやみちゃんにそっくりの女優・岸田今日子さんは、岸田衿子さんの妹です。ちなみにお母さんの岸田秋子さんは翻訳者。

そんな芸術一家で育った岸田衿子さんは、立教女学院でティーンネイジャーとして過ごしたのち、東京芸術大学油絵科に進学、卒業しています。
その後は絵本の原作者やその他さまざまな肩書きでクリエイティブな活動を行う岸田衿子さんですが、今の我々がパッと認識できる岸田衿子さんの大仕事は、アルプスの少女ハイジのオープニング曲の作詞かもしれません。

あの、「口笛はなぜ〜遠くまで聞こえるの」ってやつです。曲名は、「おしえて」。

1954年(25歳)に谷川俊太郎さん(!)と結婚。その後1956年に離婚して、1963年に田村隆一さん(!)と結婚。そしてまたしても1969年に離婚をして、以後2011年4月7日に82歳で没するまで、結婚することはありませんでした。

吉本隆明さん曰く、「日本でプロフェッショナルだと言える詩人が三人いる。それは田村隆一、谷川俊太郎、吉増剛造だ」なので、岸田衿子さんの詩への造詣の深さと感受性の強さがよくわかります。

ちなみに谷川俊太郎さんは3回結婚&離婚されていますが、最後の奥さんは佐野洋子さん。あの「100万回生きたねこ」の作者です。「100万回生きたねこ」は“不滅の愛”をテーマにした大名作ですが、その作者である佐野洋子さん自身は二度結婚して、二度離婚しているというのは、なんとも皮肉がきいていますね。
それでももちろん、名作の価値が貶められるわけではありません。
約束ができないもの、それもまた愛です。

★「100万回生きたねこ」★

そして、今さらですが、もう一人の作者が、中谷千代子(なかたにちよこ)さん。「かばくん」は、物語と文書の作者が岸田衿子さんで、絵を描いているのは中谷千代子さんです。二人は、東京芸術大学の油絵科の同級生で大親友。中谷千代子さんは、そもそも岸田衿子さんの誘いもあって、絵本の世界にはいられたとういことですよ。

「かばくん」あらすじ紹介

福音館書店の公式サイトから転載

Amazon掲載の内容を紹介します。

動物園に朝が来ました。ねぼすけのかばくん親子のところに、かめくんを連れた飼育係の男の子がやってきます。「おきてくれかばくん」。今日は日曜日。動物園は大にぎわい。水からあがったがかばくんが姿を現すと、動物園に来ていた子どもたちはびっくり。やがてご飯の時間、かばくんはキャベツをまるごと一口でぱくり。食べた後はごろんところがっておやすみなさい……。

Amazon商品紹介ページから転載

このあらすじだけみると、なんでもない動物園の一日、という感じ。ねぼすけの愛らしいかばくんを、来園者のこどもたちが暖かく見守っている。以上。

というイメージですが、そこはプロフェッショナルな岸田衿子さん。一筋縄ではいきません。

ちょっと、かばくんへの、圧が強め…

強め…

おきてくれ かばくん
どうぶつえんは もう11じ
ねむいなら ねむいと いってくれ
つまらないから おきてくれ

ちょっと強くないですか?

確かに動物園かどうかにかかわらず、11時はほぼ昼。そろそろ起きて、来園者に愛想の一つでも振りまいてほしいという気持ちはわからないではないです。でも、眠いなら眠いと言え、というのはちょっと乱暴。
最後はもうひらきなおって、「つまらないから おきてくれ」。笑

そして、さらにたたみかけます(誰?)

たべてくれ かばくん
あおい きゃべつに とうもろこし
きらいなら きらいと いってくれ
すきなら はやく たべてくれ

ちょっとせっかちすぎる。もうちょっとかばくんのペースでたべさせてあげておくれよ。時間がないのか、せっかちなのか、とにかくオラオラせきたてられるかばくんなのです。

これがまた不思議なことに、どこで、だれだ、どういう経緯で購入したのかはわからないのですが、いつの間にか我が家の本棚にしっかり収まっている「かばくん」。もちろん、蔵書。

大ファンがいるのかはわからないけど、ときたまなぜか猛烈に読みたくなる「かばくん」。間違いなく名作です。オススメ!

書誌データ

発行元 福音館書店 ※公式サイト
発行日 1966年12月25日
価 格 900円(税別)
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